あなたに捧げる不機嫌な口付け
……そう言われても、真面目に考えたんだけど。


眉をしかめたのに、諏訪さんは続きを促すようにひたと見つめてくるものだから、とりあえず口を開いた。


「じゃあこれは、完全な希望だけど」

「うん」


こんな人はおそらくいないし、いても私と出会わない気しかしない。


いたらいいな、くらいの思い。

私は独身で構わないので、それ故の高い理想。


「綺麗な髪で、大人っぽくて、面倒臭くなくて、程々の安定した収入が確保できて、家事が一通りでき」

「ちょ、ちょっと待った!」


急な停止に首を傾げると、諏訪さんがスマホを取り出している。

律儀にメモをしてくれるらしい。


「え、何かすごく話しにくいから止めて欲しいんだけど……」

「いいからいいから」


綺麗な髪なら俺にも可能性あるじゃん、と言われて、ないと即答した私は悪くないはずだ。


なんでだよ! って、私はあなたが苦手だからだ。

それと、スマホのケースが素敵で悔しいからだ。


諏訪さんなんて、ないったらない。
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