あなたに捧げる不機嫌な口付け
「…………」


とりあえず、言い切った顔で振り返りやがった諏訪さんの足を、無言で思いきり蹴っておいた。


「痛ぃった……!」


呻いているけど知るものか。


鍛えてでもいるのか、ひょろりと細い諏訪さんの足は固かった。


こちらだって充分痛かったのだから、お互い様だ。


「何すんの、せっかく褒めたのに……!」

「全然褒めてないでしょ」


何だかいい話みたいにまとめた諏訪さんに反論する。


どこが褒めてるんだ、どこが。


つまり私の失敗と諏訪さんの性癖を語っただけじゃないか。


ふん、と鼻を鳴らす。


でも、そのおかげで思い出した。


諏訪さんはあの日も、「気遣いのできる方なんですね」と言ったんだった。


『本当に周りをよく見てらっしゃるな、すごいなって思ってたんですよ』

『いえ、そんなことは』

『そんなことありますよ。気遣いのできる方なんですね』


そういうの、すごく素敵だと思います、と、さりげなくフォローまでつけ加えて。


嬉しかったけど、間違っていると思った。


「私は単なる八方美人。気遣いじゃなくてね」


気遣い、が先ほどの発言を受けてなのを察した諏訪さんが、にやりと綺麗な顔で笑った。
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