あなたに捧げる不機嫌な口付け
せっかくお茶出してくれるんだから、とか言えば後は丸め込める。


もしくは、前から気になってたお店で、こんな機会がないと買えないし、私が食べたかったからって言おう。


諏訪さんの分はそのときついでを装って買ってしまえば一件落着。


諏訪さんと一緒に食べたいんだよ、って言ってもいいかもしれない。本当のことだ。


「何食べたい?」


諏訪さんのアパート付近でスマホ片手に目を凝らして洋菓子を探しながら、早足で歩く。


アレルギーとか好き嫌いとかあったら嫌だろう、とリクエストを強請った。


「…………何も?」


むっすー、と膨れているのがこれまた伝わってくる。


そんなことをされても、やめないんだけど。


今日は珍しい機会なんだから、買うのは決定事項だ。


次、諏訪さんが何も買っていない日がいつあるか分からない。


この渋りようを見るに、日持ちするものを常備しておきそうな気配さえある。


「何か食べたいのないの?」


もう一度尋ねると、やだ、と諏訪さんは小さく駄々をこねた。


「やだ?」


やだって何がだろう、それは。


……お菓子か。

まさか、今日はお腹を壊していて、だから買ってなかったのか。


慎重に聞き耳を立てる。
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