あなたに捧げる不機嫌な口付け
「祐里恵、今日はごちそうさま。ありがとね」


送るよ、と。


例のごとく玄関を開けた諏訪さんに、どうもありがとう、と素っ気なくお礼を言うと、私が逃げられない距離と場所で何かを取り出した。


こういう無駄な周到さが嫌いだ。


囲んで囲んで、逃げられないように。

断れないように。


そんなふうに渡されたって嬉しくはないし、そんなふうに渡す必要があるものは絶対いいものじゃない。


「はいこれ、お土産に」

「いらない」


予想通りの結果に恨めしく目を細めつつ、首を振る。


お土産? 笑わせる。


今まで一度もお土産なんて持たせなかった人が、今さら何を言うの。


お土産だなんて誤魔化さないで、押しつけたいと断言したらいいじゃないか。


そうしたら、ちゃんとお礼を言って受け取るのに。


「もらってよ。シュークリームのお礼」

「いらない」


ここでこのお土産というかお礼というか、を受け取ってしまったら、これから先、私は諏訪さんに何も渡せない。


お返しが欲しくて買ったんじゃない、とは、あまりに子どもじみていて言いたくなかった。
< 79 / 276 >

この作品をシェア

pagetop