あなたに捧げる不機嫌な口付け
「何飲む?」


挙げられた飲み物は全部お酒で、未成年で飲酒はできないから首を振る。


「元取んないの? どうせ割り勘なのに」

「お酒は苦手なので」


へえ、とこれまたどうでもよさそうに相槌を寄越して、けれどどこか眼光を鋭くした。


「名前は何さんだっけ」

「……桐谷です」


意図的に姓しか名乗らなかった私を気にするでもなく、ふーん、と頷いてみせた割に、彼はほとんど義務感のように口を開いた。


「桐谷ちゃんね。分かった」

「…………」


何が分かったんだ。こちらがよく分からない。


曖昧に首肯だけはしておく。


とりあえず、この暇な時間の間は、私に話しかけることに決めたらしい。


全っ然嬉しくないんですけど。

私は放っておいて欲しいんですけど。


不本意ながらも、隅っこに寄って彼と話す選択肢しか残されていない。


始めに頼んだ烏龍茶はすでに飲み終わり、温くなって氷が溶け消えている。


暇潰しに飲み物を飲めないのは辛い。


その分浮いた時間、話すことを見つけなければいけないから。
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