あなたに捧げる不機嫌な口付け
持とうか、と言ったら断固として却下された。


俺のものしかないのに祐里恵に持たせるとか意味分かんないでしょ、と言われたんだけど、いやほら、この後ミルがあるじゃんか。

……ミルを持てばいいかな。


「エレベーター乗るよ」

「分かった」


頷いて、電化製品の階に向かった。


ミルを前に電動がいいの手動がいいのと論争していると、お困りですか? と物腰柔らかな女性が現れた。


「はい、どれにしようか迷っていて。お互いあまり詳しくないものですから」


さらりと笑顔を浮かべた諏訪さんは、さすがの対応力だ。


いろいろ詳しく教えてもらって、論争は諏訪さんに軍配が上がった。


まあ、買うのは諏訪さんだから、借りる身としては大人しく引き下がるに限る。


「彼女さんですか?」


広いフロアを横切ってレジに向かう間に、前を案内する店員さんに話しかけられた。


本来はそんなに話しかけないんだろうけど、客商売なのと夜間で空いてるのとでかな。


気にしなくていいのに、目の利く店員さんだ。

ただ、ちょっとその世間話はあんまり適切じゃなかったけど。


私がいいえ、と否定する前に、にっこり笑った諏訪さんに遮られた。


「はい。そうなんです」


いや、違うでしょ。


付き合っているように見えますか、なんて嘘をいけしゃあしゃあと吐いて、諏訪さんは殊更周到にゆるりと頬を緩めている。
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