あなたに捧げる不機嫌な口付け
私は諏訪さんを面白い人だとは思うけど、優先したいとか、一番大事にしたいとか、嫌われたくないとは思わない。


少なくとも片方が駄目なんだから、どこから思いが伸びていたって、私と諏訪さんは繋がらないし。


と、いうか。


大事にしたいなんて馬鹿な願いは、諏訪さんも当然、ちらとも考えていないだろうと高をくくっていたんだけど。


……もしかして、違うの?


まさか。


でも、違うならできるだけ早く逃げないと。

聞いておいて損はないんじゃないのか。


私は慎重に、からかいに装って問いかけた。


「それとも諏訪さんは、好きだとかそういう熱量があるの?」


んー、と、お決まりのようにぼかしが入る。


「どうだろうね。祐里恵は?」


やっぱり諏訪さんは簡単に教えてくれなかった。


どうでもいいことはほいほい話すくせに、こういうささいなやり取りの重要な部分は上手くはぐらかす。


答えてはいるから、ともすると、はぐらかされたと気がつかないうちに話題が変わっている。


誤魔化した分を補ってまた大量にどうでもいいことを話すから、私の脳はいっぱいになって、たくさん知った気になって、そのうち何を訝しんだのか忘れていく。


分かりやすくて鮮やかな手口だ。
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