捕まえてごらんなさいっ!~意地っ張り令嬢と俺様侯爵の溺愛攻防戦~
聞くのは野暮なことかと思ったが、聞かずにはいられない。

その涙がどんな意味を持つのか、とても知りたかったから。

ランスは少し鼻をすするような音をさせたあと、くぐもった声で囁くように言った。


「当たり前だ、私の長年の夢だったんだぞ?アリシアの口から"私を愛している"、と聞くことが。それが叶ったんだ、感激する以外にないだろう」

「夢って……、そんなものよりももっと持つべき夢があるでしょうに」

「他の夢は割と簡単に叶えられた。でもこれだけだ、今の今までどんなに足掻いても叶えられなかったのは。お前からその言葉を聞くために、どれだけ苦しんだと思っているんだ」


そう言って、私の身体をギュッと抱きしめた。

私も背中を摩るのを止めて、抱きしめ返す。


ランスの鼓動が重なった部分から伝わる。

とくとく、と少しだけ早く打ち鳴らしていた。



こんなに人の体温が、鼓動が、心地よいものだとは思わなかった。

自分の気持ちを伝えた今、もうこの腕なしでは生きていくことはできない。


裏切られるという不安も、すでにもう消え去っている。

そんな不確かなものよりも、それ以上に安心できる場所があるから。

安心させてくれる、力強いこの腕があるから。

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