捕まえてごらんなさいっ!~意地っ張り令嬢と俺様侯爵の溺愛攻防戦~
カストルは未だ寝台から起き上がれない私に、優しく微笑んだ。


「只今、湯浴みの準備をしておりますから、それまではゆっくりとお休みください。まだそんなに動けないでしょうから、場所までは旦那様に連れて行って貰うようにいたしますが……。あ、湯浴みには絶対に旦那様は入れません。侍女が介助しますので、どうかご安心くださいね」


"絶対"を強調して言うカストルに対し、ランスはまた不機嫌そうな表情を浮かべていたが、そんなふたりのやり取りが面白くて、つい笑ってしまった。


「なにが可笑しい」

子供のように拗ねたような口調で、ランスが問う。


「うふふ、だって」


と言いかけて、答えるのをやめた。


本当は、『そんなランスもまた愛おしく感じるから』と続けたかったが、そんなことを言ってしまったら、またランスが暴走してしまうかもしれない。


……だから。


「ううん、なんでもないの。頑張ってね、ランス」


と、それだけを返した。


< 222 / 242 >

この作品をシェア

pagetop