捕まえてごらんなさいっ!~意地っ張り令嬢と俺様侯爵の溺愛攻防戦~
「もう傷付くのは嫌なのよ……」


悲痛な思いを父に告げる。

そんな私を見て、父は一瞬悲しそうな表情を見せ、そして安心させるように私の頭を撫でた。


「そうだな。では私の方でもそこを少し探ってみるとしよう。……もしこの縁談の件でなにかあるのだとしたら、きっぱりと断ることにする。私の大事な娘を、これ以上悲しませるわけにはいかないからな」

父の言葉に、少しホッとする。

「……ありがとう、お父様」

「まあ、あれだけアリシアが強く出て断ったんだ。お前の言う通り、きっと侯爵様も目が覚めてこの話はなかったことにすると思うがね」

「そうね。……そうだといいけど」

「ちょっとした夢を見たんだ。そう思って、忘れなさい」


父はそう言うと、部屋を出ていく。


……父の言う通りだわ。

現実だけど、夢よ。

ちょっとした悪夢、それを見ただけのこと。


きっとまた、いつも通りの日々が戻る。

淡々と一日が過ぎるのを待つだけの毎日が。



刺激のある生活なんて求めてはいないから。

このまま、静かに時が過ぎていけばいいと思っているから。


……これからも私の生活が変わることは、ない。
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