捕まえてごらんなさいっ!~意地っ張り令嬢と俺様侯爵の溺愛攻防戦~
私は相変わらず、部屋でただソファーに座っていただけ。
ぼんやりとした意識の中で、時が過ぎるのを待っていた。
屋敷の中は昼でも比較的静かだった。
廊下を歩く侍従や、侍女達の話し声がたまに扉越しに聞こえてくるだけの、普段は静かな空間。
そこに滅多に聞くことのない、早い足どりの一際大きな音が近付く。
その音に朧げな私の意識が、一瞬で現実に引き戻された。
「アリシア!!アリシアはいるか!!」
父は扉もノックせずに、部屋の扉を勢いよく開けた。
何やら只事ではない表情。
その表情に、嫌な予感がよぎる。
「どうなさったの?お父様」
「い、いらっしゃったんだよ!諦めたわけではないらしい!」
父は混乱しているのか、上手く内容を話せないでいた。
ただ、"諦めたわけではない"という言葉で、その内容を察してしまう。
「え……?ちょ、ちょっと待って。まさか」
「そのまさかだ!いらっしゃったんだよ!侯爵様が!!」