捕まえてごらんなさいっ!~意地っ張り令嬢と俺様侯爵の溺愛攻防戦~

「……どういうこと?」

「なぜなのか、知りたいか?」

アーチャー様は紅茶を飲みながら、そう聞いた。


当たり前じゃない。

知りたくない人なんていないはずよ。


「そうだな……、じゃあまず」

持っていたカップをテーブルに置く。

そして、お菓子をひとつ手に取った。


「アリシアに"アーチャー様"と呼ばれるのは、どうしても好かない。これからは私をランスロット……、いやランスと呼べ」


まさかの命令に驚く。

男性を名前で呼ぶのは、普通は気心が知れた人の間でのみ。

まだ仲良くもない、ましてや彼は侯爵様であり、騎士団長様だ。

そんな人を気軽に省略した名前で呼ぶなんて……!


「そんな簡単に呼べないわ!」

「ならば教えてはやらない。……そもそもだ、なにも覚えていないこと自体、私にはとても不満なんだよ」


手に持っていたお菓子が、私の空いた口に運ばれた。

それは一瞬の出来事。

思わずむぐっ、と変な声を上げてしまう。


「旨いか?」

「ほ、ほれはもう……」


『それはもう』、と言おうとしたが口にお菓子が入っていては上手く喋れない。

そんな私をアーチャー様……、いやランスは笑って見ていた。
< 68 / 242 >

この作品をシェア

pagetop