捕まえてごらんなさいっ!~意地っ張り令嬢と俺様侯爵の溺愛攻防戦~
「……どういうこと?」
「なぜなのか、知りたいか?」
アーチャー様は紅茶を飲みながら、そう聞いた。
当たり前じゃない。
知りたくない人なんていないはずよ。
「そうだな……、じゃあまず」
持っていたカップをテーブルに置く。
そして、お菓子をひとつ手に取った。
「アリシアに"アーチャー様"と呼ばれるのは、どうしても好かない。これからは私をランスロット……、いやランスと呼べ」
まさかの命令に驚く。
男性を名前で呼ぶのは、普通は気心が知れた人の間でのみ。
まだ仲良くもない、ましてや彼は侯爵様であり、騎士団長様だ。
そんな人を気軽に省略した名前で呼ぶなんて……!
「そんな簡単に呼べないわ!」
「ならば教えてはやらない。……そもそもだ、なにも覚えていないこと自体、私にはとても不満なんだよ」
手に持っていたお菓子が、私の空いた口に運ばれた。
それは一瞬の出来事。
思わずむぐっ、と変な声を上げてしまう。
「旨いか?」
「ほ、ほれはもう……」
『それはもう』、と言おうとしたが口にお菓子が入っていては上手く喋れない。
そんな私をアーチャー様……、いやランスは笑って見ていた。