捕まえてごらんなさいっ!~意地っ張り令嬢と俺様侯爵の溺愛攻防戦~
私にそう指摘され横を向き、ようやくスカーレットの存在に気付く。

兄は慌ててスカーレットに挨拶をした。



「あ、こ、これは失礼。兄のバレッタです。俺と会うのは初めてかな?」

「ええ、バレッタ様。お初にお目にかかりますわ、友人のスカーレット=ブラウニーと申します。とても面白い方で、ふふっ」

「変なところを見せてしまってすまない。どうも気が早くて……俺の悪い癖でね」

兄は照れながら、そう話す。

心配してくれるのは嬉しいが、ここまで早とちりされると逆に困惑してしまう。

普段は私のことをここまで気にかけるような兄ではないのに、まるで人が変わったみたいに。 


……でも無理はない。


私も兄も、母のことを見ているから。

床に伏せ、日々弱々しくなっているのを間近で見ていたら、余計に心配してしまうのは仕方のないことだろう。


お互いあんな思いはもうしたくないと思っているから。

助けてあげたいのに、なにもできない。

ただその日を待つだけのあの日々は、なによりも苦痛なものだった。



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