何となく空見上げちゃうでしょ?
生まれながらにして心は弱くて、生きる適性が無いのかもしれない。いつも周りと合わせることに精一杯。それが普通だって思ってた。それが正しいんだって思ってた。
不安でしょうがない。むき出しの心じゃ生きていけない。また吐き気がする。


あれからどれくらいたったかな?ここにはまるで時間という概念が存在しないみたいだ。
あのとき河田童子に言われた一言が俺をこんな所まで連れて来てしまった。
「芸術はその人を表します。この音楽は空っぽ。貴方もクゥアらっぽ。」

返す言葉も無かった。そして、誘われるがままにここまで来た。

ここでは何もかもが生きている。はじめに来た時は驚いたものだ。
誰かに話しかけられたと思ってしばらく会話をしていたんだが、誰と話しているのか分からない。童子に言われて始めて話し相手が木だと知った。皆が笑っていた。私も笑った。何だかおかしくて。涙まで流して。

この木、名前はトリーといった。彼の周りにはいつも小鳥やリス、虫達が集まっていた。私も良くトリーの所に遊びに行った。鳥達はあちこちの話を聞かせてくれるし、虫達の合唱は心地よく響き渡り、リスは木の実を分けてくれた。
木の実を取りすぎるとトリーに怒られた。

なあ、トリー。ここには人間はいないのかい?
別に人間が恋しくなったわけではないが、一人もいないというのは何だか不思議な気がしたのだ。
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