ミツバチジュエル
「裏側までチェックするのかよ! 腫れて見えない時は無理だぞ。切り取り線でもつけといてくれよって言いたくなるな」
「指輪は切ること前提で作ってないんだってば! 幸せを願ってブルーダイヤを裏側に付けている指輪、割と多いんだから。わからなかったら持ち主に聞いてよ」
「聞けるようだったらこれからは聞くさ。でもな、聞けない状態の患者さんもいっぱいいる。だから切り取り線が欲しいんだよ!」
こそこそと話しながら見えない『切り取り線』を真剣に探す貴斗を眺めていたら、ちょっと笑えた。
でも、そんな生死の境をさ迷っている患者さんを相手に、日々精一杯仕事をしているという彼の言葉の重みを受け止めると、私が現場へ行って切り取り線を書いてあげたくなってしまう。
それより、私が切った方が早いのかもしれないけれど、そうもいかないし。
ここはやはり、貴斗にちゃんとマスターしてもらわなくては。
指輪をひっくり返したり、指先でダイヤの凹凸をなぞったりしている貴斗は、お客さんのふりを忘れ、職人のような目でじっと指輪を見つめていた。