ミツバチジュエル
微妙な距離を保っていた貴斗と私を、また昔のように行き来させるきっかけを作ったのも、双方の母親達だった。
平日しか休みのない私と、当直明けで眠そうな貴斗を家から引きずり出し、突然スキー場へ向かわせたのだ。
車が家の前に横づけされ、10年振りに我が家へ来た貴斗が、私に向かってこっそり呟いた。
「うちのお袋のわがままで、咲まで巻き込んでごめん」
運転手として貴斗が必要だったが、おばちゃん2人と貴斗の組み合わせのままスキーと温泉に行くとなると、さすがに可哀想だと思ったらしい。
私達は荷物運びとドライバーをさせられ、その後の温泉も付き合わされた。
さすがに部屋は別々だったけれど、食事は一緒。
母親達が温泉、岩盤浴、エステと楽しんでいる間、私と貴斗は飲みながら待つしかなかった。
かなりの時間、離れていた私達だったけれど、意外と話し始めるとネタは尽きないもので。
以来、時々母親達の道楽に付き合わされているのだけれど。