ミツバチジュエル
「やっ! 虫!」
「待て、動くな! じっとしてろ!」
貴斗が慌てて立ち上がり、私の方へ近寄ってきた。
でも、再び顔の側に近寄る羽音に驚いて払いのけようとしたその時、右手の中指が熱を感じた。
「熱っ!」
熱を持った指を見ると、小さな黒いものがついている。
「刺されたのか!? 見せてみろ」
「そう、みたい。痛い。めっちゃ痛いんだけど」
貴斗に右手を差し出し、自分でもよく見る。あ、指輪……。
「よりによって、この指かよ。これ、切らなきゃダメっぽいぞ」
「いい。この指輪はどこ切ってもいいから。どうせ直せないデザインなの」
初めてもらったボーナスで買った、綺麗な細工が施された三連リング。
片思いしていた上司が選んでくれた指輪だったけれど、お金を出したのは私だし、デザインが気に入っていたから使い続けていただけ。
もう、未練はない。それより指の方が大事。
早く切ってもらわなくては。
そう考えているうちに、急激に喉が詰まるような感覚があった。