【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
「夏休みまでもうちょっと……我慢して?
去年はみんなで海とか行ったから今年も行きたいけど……千瀬とふたりでも、過ごしたいの」
「……莉胡」
「ほら、夏休み最後は……ちょうど1年でしょ?」
1年。長かった東西の張り合いに決着がついて1年。
──俺の長過ぎた片思いが実って、1年。
莉胡との記念日ぐらい、俺もふたりだけで過ごしたい。
いつも莉胡の方がなんだかんだ想定外のことを仕掛けてくるから、俺にサプライズとか似合わないし、きっと大したことはしてやれないだろうけど。
「……それはわかるけど、いまこのタイミングで言う?
完全に俺のこと煽りにくるのやめてくんない?」
いまだ押し倒したままだった格好から、莉胡の隣にごろんと寝ころんで。
ぎゅうっと後ろから抱きしめてその髪に顔をうずめれば香る甘い匂いに、いっそ酔いしれたい。
「ふたりとも、ご飯よー」
莉胡がくすぐったそうに笑ったりするから、完全にイチャイチャタイム。
そのせいでお互いに周りが見えていなかったようで、階段をのぼってくる足音にも気づかなかったらしい。かちゃりと扉が開いて顔をのぞかせたのは俺らの母親で。
「あら。お邪魔しちゃったわね」
「そうみたい。……先にご飯食べてましょうか」
何事もなかったかのようにしれっと扉を閉めるふたりと。
思わず顔を見合わせて、何やってんだ俺ら、と同時にため息をつく俺と莉胡。いちゃつきすぎて周りが見えないなんて、普段の俺じゃありえないのに。
ほんと、莉胡には何もかも狂わされて困る。
……だけどそれすら愛おしいんだから、俺ほんと馬鹿なのかもしれない。
「ほら、ご飯行こう莉胡」