【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
「千瀬……、千瀬ってば、」
「ごめんちょっと……」
肩貸して、と莉胡の肩に額をのせて顔をうずめると、俺の呼吸が浅くなるのを気にしたのか、莉胡の手が背中をなでる。
それにすこしだけ安心して徐々に荒い呼吸はおさまったけど、めまいがするような気分の悪さだけはなおらない。
「どうしたの、千瀬、」
「……莉胡、こいつと何があったかおぼえてない?」
「ごめん……覚えてない」
──俺が莉胡を好きになったあの笑顔を見せてくれた時。
俺は、ひとりの男の発言が原因で、幼い心を傷つけられていた。そしてそのときに味方になってくれたのが莉胡だ。
だけど、そもそもの喧嘩の原因。
俺が"しらはまち"に「嫌い」だと言われたその理由は、莉胡にあった。──莉胡とずっといるから嫌いなんだと言ってたけど。それよりも、もっともっと大きな原因。
「この男……
例の、シンデレラの、莉胡の相手役だったじゃん」
莉胡が、"しらはまち"を王子様にした、シンデレラを演じるのを嫌がったから。
俺がいいんだと、あれだけ言ったから。──だから俺は、この男に、嫌いだと言われた。
結局はその喧嘩も、「千瀬をいじめないで」って言ってくれた莉胡のおかげで俺の心にはそう残らなかったけど。
……きっと"しらはまち"の心の中には、深く残っただろう。──大きな傷として。
言ってしまえば5歳にも満たない子ども同士の喧嘩。
だけど。……だけど、そうじゃない。
「莉胡……ごめん」
視界が霞む。
ぎゅっと抱きしめて耳元で謝罪の言葉を口にする俺に、莉胡は不安げな顔をする。──ごめん。