【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
……いっそわたしが妬けてしまうくらいに。
なんて言ったら、一体どんな顔をするんだろう。
「俺が好きなのは莉胡だけだって言ってるでしょ」
「……そういう意味じゃないわよ」
手をつないで、東までの結構な道のりを歩く時間。
それはもちろん嫌いじゃなくて、ふたりだけの時間はうれしくて。当たり前のようにそばにいさせてもらえることが、どうしようもなくしあわせで。
「ねえ……千瀬。好き」
「俺も好きだけど」
言葉で戯れるようなこの時間も、好きだ。
指先を絡める以上の触れ合いがほしくて足を止めると、どうしたのと振り返る千瀬。まわりを見回して人がいないのを確認してから、背伸びした。
ちゅ、と軽く触れるだけのキス。
してから恥ずかしくなったけど、千瀬の目元が甘く細められたから、どきどきする。
「……今日1回も、してないから」
言い訳じみた言葉を口にして逃げようとしたら、つながったままの指先を引き寄せられて、顔に影がかかった。
わたしの方が身長が低いから、立ったままのキスはいつも千瀬が腰を折ってくれる。その身長差も、千瀬が男の子だって意識させられてどきどきするのに。
「……俺は1回じゃ足んない」
「っ、」
「あんまかわいいことしないで。
……俺に可愛がられたいって言うなら、べつだけどね」
付き合って半年経つのに耐性がつかない。
いまだにいつも赤くさせられて、そのわたしを見て楽しんでる千瀬。タチが悪いのに、くれる言葉は本物ばかりだから、悔しいけど勝てるわけがない。