【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
「俺のとこに、もどっておいで」
「っ、」
ほら、と。
軽く腕を広げられたら、於実がここに出てくることも知っていたから手を振り払わなかったのに、彼に抱きつきたくなってしまう。
「……ふ。いい子」
於実の腕から抜け出して飛び込めば、そう囁いて頭を撫でてくれる千瀬。
ぎゅう、と抱きしめられる腕の中はあたたかくて、わたしのあげた香水の香りがする。
「強引に莉胡のこと連れ去るのかと思ったけど、そんなことないんだね。
しかも於実との写真以外、証拠はなし?」
くすくすと笑う千瀬。
顔を上げようとしたら「抱きついてていいよ」なんて言ってくれるから、甘えるように胸に顔をうずめた。
「……おいミケ、予定と違うじゃねえか」
「うん、そうだね。
ふふっ……だから俺ちゃんと言ったよ?彼は、相当莉胡ちゃんのこと好きだって」
「………」
「だからこんなことしなくても、このふたりは絶対別れないから。
……ああもう、ふふ、うまくいかないとこんなにも不完全燃焼で面白くなっちゃうもんなんだね」
そう言いながらとても楽しげに笑っているミケ。
面白い要素がどこにあったのかはわからないけれど、不完全燃焼ゆえに千瀬が困っているのは事実だ。
「あのね、千瀬。
……ほんとは今日、まーくんたちはわたしを迎えに来たわけじゃないのよ」
「……は?」