【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
「っていうかさ。
……なんで莉胡はそれ知ってんの?」
「え?ミケから聞いたから」
にこっと微笑めば、目が合った"まーくん"がちらりとミケを見る。その視線がどこか曖昧なのは、彼もミケがわたしに言ったことを知らなかったからだろう。
……本来の筋書きは、そもそもこうじゃなかった。
「本当はね。
……莉胡ちゃんと君が、万智と同じ幼稚園に通っていたことを完全に忘れてる、ことが前提だったんだよ。事実ふたりは覚えてなかったみたいだし」
「それで、万智がいまもわたしを好きだっていう嘘の作り話と、於実の証拠で千瀬を試す予定だったらしいの。
だけど作戦までは知らなかったわたしが、うっかり同じ幼稚園出身だったことに気づいちゃったのよ」
「もう完全に台無しだよね。
こっちの手札それだったわけだし。……於実にもこうやって出てきてもらったけど、軸がないからちゃんとうまくいかないわけだし」
はあ、とため息をつくミケに思わず謝る。
作戦を知っていたら、もし思い出したとしても言ったりしなかったのに。わたしが友だちになろうと取引した時、代わりにミケに頼んだのは裏切りだった。
於実が裏切った、というように仕立てて、千瀬にダメージを与える予定だったみたいだけれど。
それはあくまで、万智とミケの取引だった。だから、取引ではなく、プライベートの友だちとして「約束」という言い方で、万智を裏切るように頼んだ。
このときわたしはまだ、千瀬を試すだけの予定だと知らなかったから。
そしてミケはそれを飲んでくれて、代わりにわたしは於実との写真を提供した。だから於実もそれは知ってる。
……でも、もしはじめから千瀬を試すだけだったんだとしたら。
どうして裏切りの発言に乗ったのか、よくわからない。
本当に千瀬を傷つける気なんだろうと思っていたから、同じように万智を傷つけて引き留めようとした。
でもそれはわたしの勝手な思い込みだったわけで、ミケがあの取引を飲む理由はどこにもなかった。
「……どうして裏切りに協力するなんて言ったの」
「……俺も、試したかったからだよ」
ミケを見れば、その瞳が同じようにわたしに向く。
その事実だけですこし泣きそうになるのは。……この人が友だちになると、あのとき言ってくれたからだろうか。