【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
そう言ってバイクに跨る万智に、「まーくん」と声をかければ、視線だけで返事をされる。
……今回、わたしは千瀬に彼が同じ幼稚園に通っていた存在だったことを教えてしまったけれど。
「千瀬……一回揺れたのよ。
あなたがあの時のまーくんだって知ったとき」
「……莉胡、」
「もしあなたが今もわたしを好きなんだとしたら。
……適わないかもしれないって、本当は揺れたの」
だから。もし今日ここでその事実を知っていたら、彼は平然としていられなかったかもしれない。
……あのときでさえ、ずいぶんと気分が悪そうにしていたんだから。
「だけど先に言っちゃったことで、わたしは千瀬を慰める機会をもらったし、千瀬はその分自信をつけてくれたの。
……だから、あのね、"ありがとう"」
受け取ってもらえなくても構わない。
一方通行なわたしの感謝でも構わないけれど、どうしても行っておきたかったの。ありがとうって。
「言っとくが俺はとっくに別の女のこと大事に思ってんだよ。
どっちかっつうと、色々言いてえのはお前じゃなくてそっちのオレンジ髪」
……ってことは、万智の好きな人は、いとこさんなのか。
いまはミヤケの彼女だもんね、なんて思っていれば後ろでミヤケが「あいつは俺のだから」とめずらしくかっこいいことを言う。……いや、彼女さんの前ではいつもそんな感じなのかもしれないけど。
「だから心配しなくても取ったりしねえよ。
っつうか、はじめから気づけよ。なんで俺らが先代に圧かけられたからって、あんな事細かに書かれた情報お前らに提供すんだよ」
「え?ああ……そうね。
……ん?ってことは、十色とかちあちゃんって、」
「あのあたりもぜんぶグルに決まってんだろ。
ミケが今回のことを話したら、二言返事で『手伝うよ』って言ったらしいぞ」
それを聞いて、千瀬のこめかみがピクッと反応する。
……あれ、これちょっとまずくない?
「千秋……十色さんも……、
あの人たち俺のことなんだと思ってんだ」