【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
お怒りだ。千瀬がお怒りでいらっしゃる。
落ち着いて、となだめたら嫌そうな顔で「ほんとなんなの」と拗ねるから、ちょっとかわいいと思ってしまった。
「俺のことそうやってからかって……
俺が莉胡のこと手放すわけなんかないじゃん」
「……ふふ、うん。
ちあちゃんと十色もそれをちゃんとわかった上で、色々試してくれたんじゃないの?」
「お前はなんでそんなポジティブなわけ?
ってか、なんでそんなに砂渡と仲良くなってんの?」
「……友だちだから?」
「友だちと後輩の前で、普通あんな下着姿同然の格好晒す!?
俺普通にこの写真のことで莉胡に腹立ってんだけど」
それを言われたら文句が言えない。
ひらひらと茶封筒を揺らした千瀬は、はあっ、と大げさにため息をついて、お怒りらしい。そしてどうやら怒りの矛先はわたしに向いてしまってるらしい。
「こんな肌見せんのありえないでしょ。
……頼むからほかの男の前でこんな無防備なカッコしないで。頼むから。相手がいくら信頼してる男でもやめて」
「……それが嫌だから、あんなに莉胡ちゃんにマーキングしてるんじゃないの?
正直見たとき俺も於実も引いたからね」
「うるさい……
いいじゃん、俺のなんだから」
きつく抱きしめられた腕の中で、こっそり於実を盗み見れば目が合ってしまって、優しく微笑まれた。
……とても申し訳ないけれど。於実がわたしを好き、というのだけは、たぶん本当。
「……ああ、伝え忘れてたが。
近いうちにもう一回くるからな」
「は?なんのために?
莉胡も渡さないし、うちの副総長しつこいからどうせ彼女のこと手放さないけど?」
「違う。……元は月霞らしいが、俺らHTDの敷地は位置的に累の敷地になる。
正式に西の敷地と合併させるために来る」