【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
不機嫌だ。
千瀬が完全に不機嫌になってる。
「……撮るのはいいけど。
それ十色さんとか千秋に見せんの絶対やめてよ」
そう言って、わたしが差し出したままのケーキをぱくっと食べる千瀬。
やっぱり甘かったようで「甘い」とつぶやいてたけど。切り分けた分はちゃんと食べるらしいから、用意してくれたみんなも笑顔だった。
「莉胡、ケーキ食べるんでしょ」
「うん、食べる」
千瀬の分は彼に渡して、置いていた自分のケーキをもぐもぐと口に運ぶ。
美味しい?と聞かれてこくこくうなずいていたら、千瀬は「よかったね」と頭を撫でてくれた。
……あれ、これって完全に子ども扱いされてない?
「莉胡お前、一応主役は千瀬だろ。
なんでお前の方が美味そうに食ってんだよ」
「だってケーキに罪はないんだもの」
「……別にそんなの気にしなくていいよ。
こんな幸せそうな顔して食べてんの見てたら、さすがに満足するから」
そう言ってくれる千瀬に甘えて、周りのことはお構いなしにケーキを食べる。
このあとなんだかんだ騒いで解散したのは22時前だったけれど、家に帰ったらお母さんたちも千瀬のケーキを用意してくれていた。
ホールケーキじゃなくて、ひとり分のケーキが4つ。
千瀬は明日食べる、と言っていたのに、主役じゃないわたしがその横で食べていたから、「ケーキに関しては胃袋無敵だよね」と千瀬は一言。
完全にけなされているけど、やっぱりケーキに罪はない。
そういえば倉庫でとっていた動画は案の定ちあちゃんと十色に送信されていたらしい。千瀬はふたりから送られてきた揶揄うようなメッセージに、ひたすら文句を言っていた。
そしてわたしのスマホに送られてきていたのは、いつ撮られたのか、わたしと千瀬が笑顔でうつってる写真。
後日、現像したそれが夏川家と七星家のママたちによって、リビングのコレクションに追加されたのは言うまでもない。