【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
「でも、よかったね。
……こんな風に、楽しく未来の話を出来る環境になって」
ふと。
隣にいた千音が、穏やかな声でそう紡ぐから。そうだね、と笑みが漏れる。……もう不安になることはないんだから、こうやって話せることは、本当にうれしい。
「……莉胡」
「うん?」
「好きだよ」
「……えっ、どうしてこのタイミングなの!?」
あたふたしている莉胡にくすっと笑って、幹部室を出る。
静かな廊下を歩いて総長室に入り、クローゼットを開ければ中に並んでいるのは歴代トップたちの特攻服。
6代目にも。
……ちゃんと、『我命有限絢乃愛続』の文字。
ジンクスではないけれど、ここに名前を刻んだ相手と歴代のトップたちが結ばれていることを莉胡が言ったから、十色さんは引退前にちゃんと刺繍し直したらしい。
……6代目になる前から莉胡と付き合ってたわけだし、わざわざ彼女の名前を一度刺繍する必要もなかっただろうけど。
気持ちは揺らがないっていう、十色さんなりの表現方法だったのかもしれない。
……結局は揺らいで、糸を抜いたのも事実だけど。
「もう千瀬っ、言い逃げしないでよ……!
またみんなからニヤニヤされたじゃない……っ」
そんな声が耳に届いたかと思うと、後ろからぎゅうっと抱きつかれて甘い香りに口角を上げる。
背中に顔をうずめるようにして抱きついてくるのもかわいい。……うん、結局ぜんぶかわいいよ。
「はいはい、ごめんね。
……でもこのままだと顔見えないから、こっち回ってきて。抱きしめてあげるしキスさせて」
拗ねたように抱きついていた莉胡が、腕を離さないまま俺の前に回ってくる。
隠していた顔を上げた莉胡が笑顔だったから、その笑顔を一瞬たりとも逃してしまわないように、ぎりぎりまでまぶたを落とさないまま口づけた。