【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
12.灼熱カレイドスコープ[ベリーズカフェ限定]
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「わあ……なんとなく覚えてるかも。
ねえねえ、懐かしいね、千瀬」
「……なんとなくっていうか俺莉胡にここ連れまわされた記憶はっきりあるんだけど」
──夏。といえば、海。
って莉胡がうるさいから、ふたりきりの夏休み旅行の行き先は海。しかも去年累の幹部たちと一緒に行ったあの東の海。
で、俺らがいまきてるのは、夏川家の別荘。
……そう。去年、俺らが旅行に来た時千秋が泊まったらしい"あの"別荘。
とはいっても、去年泊まったコテージからそう遠くなくて。
前に千秋は雨の中車を出してくれたから遠回りしなきゃいけなかったけど、小道を抜けていけば前の海まで5分ぐらいだ。
「千瀬、あんまり莉胡をいじめないの。
莉胡、荷物ここに置いといてもいい?」
「あっ、うん。
ちあちゃんわざわざ送ってくれてありがとう」
……今年もなんで千秋はここにいるんだろう。
と思ってしまうけど、なんでも今回は別に俺らのためについてきたわけじゃなく。送迎してくれただけで、今日はすぐに帰ってまた明日迎えに来てくれる。
東西とHTDが統一した以上、やらなきゃいけない仕事もそれなりにあって。
幹部たちと海に行くのも考えたら、どうしても莉胡との旅行は一泊しかとれなかった。
莉胡も、由真やミヤケの彼女とも遊びたいみたいだし。
多少は妥協すればもう一泊できなくもないんだけど、夏休み最後には付き合ってから1年ってこともあって、今回は莉胡のわがままに合わせてる。
「どういたしまして。
じゃあ、俺は帰るから。……楽しんで」
「ありがとう、また明日ね」
ひらひらと莉胡が手を振れば、穏やかな笑みを添えてから帰る千秋。
ふたりきりになった空間で、莉胡に「はやく海行こう?」と裾を引かれたからうなずいた。
……ちょっとだけ、憂鬱なのは。
莉胡の水着が去年と同じものだと知っているからだ。