【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
いや、でも今年はもう付き合ってるわけだし。
幼なじみなんて不安定な関係じゃないんだから、気を遣う理由もない。……手を伸ばせられるこの距離に、ちゃんといてくれる。
「千瀬、背中に日焼け止め塗ってくれる?」
「いーよ。このまま塗ればいいの?
寝転んで塗るならテントの中寝転んでくれていいけど」
「じゃあ寝転ぶ」
照りつける太陽の下。
テントの中に余裕でふたり入れるけど、入口がひとつだから熱気がこもって暑い。さっき組み立てたばっかりなのにすでに熱中症になりそう。
「邪魔だったら紐ほどいてくれていいよ」
ひんやりと冷たい日焼け止めを手に取って、莉胡の背に伸ばしていたら。
なんともないようにそう言われて、くっと言葉に詰まる。
「……、気安くそういうこと言わないでくんない?」
べつの意味でほどきたくなるし。
……そんなことしないけどさ。俺が男だってこともちゃんとわかっててそう言うんだったら、ずるいにも程がある。
「千瀬の背中にも後で塗ってあげるね」
「はいはい、ありがと」
「……もう。素っ気ないんだから」
結局は紐を解くことなく塗り終えて、起き上がった莉胡の胸元にも俺の胸元にも、おそろいのネックレス。
この日のためにどれだけ俺が自分のものだって印をつけるのを我慢したのか、莉胡は知らない。
莉胡の白い肌に噛み付きたくなるような衝動を我慢して、ぎゅっと抱きしめる。
テントの中はやっぱり暑いのに、焦れ焦れするこの瞬間は、嫌いじゃない。