【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
「千瀬?」
「海来てんのにテントの中にいるって、あきらかに損してると思わない?
……でもまあ、こんなところにふたりきりってなんかいいよね」
するりと莉胡の首筋に指を伝わせ、顎を持ち上げて。
か弱く俺の名前を呼ぶそのくちびるをふさいで、蒸れるような暑さの中で、何度もキスを交わす。
「んっ……」
溶けそう。
ゆっくり、と望むのにその瞳の奥が急速に溶けていくのが目に見えてわかる。……ゆっくりを望むくせに、どうしようもないぐらい欲しがってるってことも。
「……まだ足りない?」
耳元で囁いて、上気した頬を撫でる。
まぶしそうに目を細めた莉胡が、「もっと、」と求めてくるからふっと笑って、シャドウの乗ったまぶたにくちびるを落とした。
「だめ。欲しいって言われたらあげたくなくなる」
「……普段は欲しいって言わせるくせに」
「ふ。天の邪鬼なの知ってるでしょ?
莉胡が嫌がるなら求めさせたくなるけど、求められたら与えたくなくなる。……でも、」
結局は与えちゃうんだけど。
今はまだあげない、と彼女の手を引いてテントを出れば、焼けそうなぐらい暑い。絶対焼けちゃうから!と莉胡が強引に俺に日焼け止めを塗ってくるから「大胆だね」と囁いてみれば、案の定顔を赤くした。
「そういえば、ネックレス外さなくていいの?
錆びちゃうかと思ったんだけど、」
「ああうん、普通に錆びるよ。
綺麗に洗って完全に水分取っておけば大丈夫だろうけど……錆びたら錆びたでいいんじゃない?」
綺麗に使ってくれるのもうれしいけど、肌身離さず持ってるってわかる傷がついていた方が、あげた身としてはうれしいし。
濡れなきゃ大丈夫かな、と莉胡はつぶやいて、シートの上で俺に身を寄せる。