【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
「……人前でキスしないで」
「さっき写真撮るときもしたじゃん。
っていうかみんな自分たちの世界だから俺らのことなんか気にしてないよ」
「でも、さっきからちらちら女の子たちが千瀬のこと見てるもん……」
むすっとつぶやく莉胡。
見てる?とまわりに視線を這わせれば、たしかにちょっと離れたところにいる女の子数人が、しっかりこっちを見ていた。……ったく。
「なら尚更、見せつけとけばいいよ。
っていうか、ヤキモチ妬いてんの?……かわい」
「っ、恥ずかしいから真顔でかわいいって言わないで……っ」
「じゃあどんな顔で言えと」
海に入るのにメイクしたの?と聞いたら、ウォータープルーフだから平気だと言っていた莉胡。
メイクするようになってさらに大人っぽくなった彼女が段々メイクに慣れてきて腕を上げたのか、最近また色気が増してきた気がする。
透明なグロスを塗るようになってからなぜか消費が早いって莉胡がぼやいてたけど、たぶん俺とすぐキスするからだ。
……やめてって言われてもキスするけど。
「安心しなよ。
……俺には莉胡しか見えてないから」
「……千瀬」
「もっかいキスしてから、ちょっとだけ海入ろ。
せっかく来たのに海入らないのもったいないし。ね?」
「……うん」
説得すれば、こくんと莉胡がうなずいた。
焦れったいぬくもりだけをやわらかいくちびるに残して、焼けるような暑さに思考が滲む。……こんなにも莉胡が可愛くて堪らないのもきっと、夏のせいだ。