【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
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「綺麗……
案外ベタなロマンチックも好きなのよ?わたし」
「少女漫画とか好きだもんね」
「うん、そうなの」
俺の両親も莉胡の両親も、いい意味で放任主義。
こうやってふたりでの旅行も何も言われないし、いってらっしゃいと笑顔で見送られる始末。その方が俺は助かるけどね、と夕日に照らされたその横顔を見つめた。
「……なぁに?」
「……好きだなと思って」
「そりゃあすごく綺麗だもの。
こんなに綺麗な夕日、地元じゃ見れないでしょう?」
綺麗なその横顔を見るだけで、本当はどうしようもないぐらい胸が苦しくなる。
……言葉じゃ表せないほどに莉胡が好きで、莉胡が同じように俺を好きでいてくれてるのだとしたら、感情がひどく昂って困る。
昂った気持ちは、欲しいって欲求になるから。
……見返りを求めることがなければ、きっと恋愛はこんなに楽しいものでも苦しいものでもなくて。
「ちがうよ。
……俺が、莉胡のこと好きだなって思っただけ」
照れて赤くなる顔も、キスで不安定に揺れる吐息も。
俺の名前を愛おしげに呼ぶ声も、ぜんぶ。──俺だけのものに、してしまいたいから。
「……わたしだって好きよ」
「……それはちゃんと、わかってるんだけど。
なんだろうな。……自分でも、莉胡にそれ以上何を求めてるのかよくわかんないんだよね」
ただ。……枯渇しているみたいに、莉胡の"千瀬だけだよ"って言葉が欲しくて。
「愛してる」と小さくつぶやかれた一言に、ぐっと胸のうちが狭くなる。……それと同時に、満たされるような気分にもなった。