【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
「……不意打ちでそういうのずるくない?」
「だって、言って欲しそうな顔してた」
くすくすと笑った莉胡が俺のすぐそばまで歩み寄ってきて、じっと俺を見上げる。
小さい頃はそう変わらなかったのに、気づけばこんなにも身長差ができて。思春期なんて言葉で片付けてしまえるほど呆気ないものではなかったけれど、距離の分だけ溝ができて。
「ちょっと顔赤いの……
夕日のせいじゃないって思っていい?」
「……莉胡のせいに決まってんじゃんか」
「……、うん。
でも、わたしも……好きって気持ちじゃあらわせないぐらい、千瀬を好きだって思ったの」
ああ、たぶん同じだ。
内側から湧き出る熱はもどかしくて、伝えたくて、でもうまく言葉にはできないその焦れったい感じ。……駆け引きとかじゃなく、ただ純粋に。
「俺も愛してるよ」
愛してるというひとつの感情でしかなくて。
好きのもっともっと上。だけど家族でも幼なじみでもない俺らだけが共有できる、こぼれ落ちた雫のような甘さを孕んだそれ。
「ふふ。後で思い出して恥ずかしくなりそうね」
「ほんとだよ。
なんでこんな会話してんの俺ら」
それを言葉にするのは惜しい。
だけど言葉にしなきゃもどかしい。
そんな葛藤の末にあふれ出た「愛してる」を満足げに受け取った莉胡が、わずかしか残らない夕日をカメラにおさめた直後に、日は沈んだ。
──ふたりだけで過ごす、夏の夜。
「……かき氷、食べに行くんでしょ。
あんまり遅くなったら夕飯食べれないし、明日帰る前に食べればいいから今日はひとつを半分こね」