【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
「っ、もう……だいすき、」
俺がテーブルの上に置いておいた袋。
何も書かずに、莉胡のスマホに『袋の中身見ていいよ』とだけメッセージを送ったのを、彼女は風呂上がりに見たらしい。
そして、その中身はあらかじめ買っておいた腕時計。
箱のまま渡したらきっと莉胡が遠慮してしまうと思ったから、ショップの袋に入れ変えたけど、一応有名なブランド物だ。
そしてそれと同じ袋の中には、小さなメッセージカード。
『1年そばにいてくれてありがとう』とだけ添えたそれは、本当は1年ちょうどで渡す予定だった。だからまだ、すこし早い。
だけどせっかくのふたりきりの旅行。
気分が乗っている時の方がいいかと思って渡したけど、ずいぶんと喜んでくれたらしい。
「アクセサリー系はもういくつかあげてるし。
何がいいかと思って、腕時計してないの知ってたから買ったけど、つけない派だった?」
「つけてないだけなの。だから、千瀬のプレゼントはちゃんとありがたく使わせてもらうね。
でもこれ有名なブランドのものよね?高かったんじゃない……?」
……やっぱり気にするか。
まあ安くはないけど、種類がたくさんある中でも手を伸ばせばなんとか買えそうな値段のにしてるから、めちゃくちゃ高いってわけでもない。
それに。
今回ちょっと奮発したのは、訳があって。
「莉胡が誕生日にくれた香水……
後で知ったけど、あれ相当高いらしいね」
──そう。
合併の話が上手くいったあとも、何度か月霞に訪れていた砂渡あらためミケが、持ち運べるようにして小分けにしていた香水の小瓶に気づいて。
どこの?と聞かれたから答えたら、「高級なのもらったね」と嫌味ったらしく微笑まれた。
あとで調べたらほんとに高校生が相当無理して買ったとわかる額の高級品で、いくら莉胡が大手旅行会社の娘だからって申し訳なくなったわけで。
「……お父さんの知り合いの店だったから、元の値段よりかなり安くしてもらって買ったの。
だから千瀬が気にするほどのことじゃないって思ってたのに……やっぱり気にしちゃった?」
「ハリウッドセレブたちが御用達のブランドだったんだけど」