【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-



「なにこれ、」



「ん?」



1台のバイクの黒いシートの一部。濡れて色が濃くなっているそれ。

雨も降ってないのにどうして?と思わず手を伸ばして触れて、返した手のひらを目にしたわたしは、思わず息を詰めた。……これ、って。



「血、じゃない……?」



「帰るぞ莉胡。

薬局は地元で千瀬に連れていってもらえ」



「まってミヤケ、なんで、」



綺麗な方の手で彼の服を引けば、ミヤケは小さく息を吐く。

それからその手をつかんですこし早足で歩き始めたかと思うと、「あいつらがもし本当に喧嘩とかで巻き込まれてんなら、」とわたしに説明してくれる。




「まだ近くにあいつらの敵がいる。

しかもあいつら西のヤツらだっただろ。んで、東のヤツらはまず手は出さねーよ。なのにあいつらが喧嘩したんだとしたら、」



「………」



「東西以外の、敵がいる。

だから俺がいま優先すべきなのはあいつらの行方を追うことじゃなくて、お前を無事に千瀬のとこまで連れて帰ることだ」



「ミヤケ、」



「帰ったら俺が下のヤツら連れてもっかい探しに行く。

そしたらお前にあとで情報くれてやるから、とりあえずいまは千瀬んとこまで素直に帰ってくれ」



わかったな?と強く言われて、逆らえなくて。

小さくうなずいたところでポケットの中のスマホが震える。それを取るためにミヤケがわたしの手を離すよりもはやく聞こえた、「莉胡!」とわたしを呼ぶ声。



「……千瀬、」



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