【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
顔を上げた莉胡の瞳に滲む涙を指で拭って。
どうしたの?と聞けば、「好き」と答える莉胡が可愛くて笑みが漏れる。
「知ってる。……俺も好き」
やわらかい頬に手を添えて引き寄せたら、わかったように目を閉じる莉胡。
そのまま一度だけ触れて離せば、至近距離で莉胡がまぶたを持ち上げて、「もっと、」と求めてくるから。
「……俺にどうしてほしい?」
耳元で囁くと、触れたままの頬を赤く染める。
……ったく。ほんとに、かわいいな。
「いっぱい……好きって、言って」
付き合う前は考えられなかったのに。
今じゃこんなにも、愛おしくて、心の奥に閉じ込めきれない物欲しげな熱視線を向けてくれる莉胡。
付き合ってからわがままになった、と莉胡は言ってたけど、それぐらいでちょうどいい。
貪欲に求めてくれる莉胡のことを嫌いになんて、ならないんだから。
「ん……いいよ。
莉胡が満足するまで言ってあげる」
口づけてその隙間で何度も好きだと囁く。
そのたびに莉胡はうれしそうな顔をするから、せめてこの間だけでも、嫌なことは忘れてくれればいい。
「……好きだよ、莉胡」
「ん……、だいすき」
まるでそれしか知らないみたいに。
ただただ無垢に言葉とくちびるだけで戯れる時間。
計り知れない本能だけで熱情を求めるよりもよっぽど有意義な時間だと思う。
莉胡の首筋に艶めかしく咲く独占の花。幼なじみから特別な存在へと昇格できたのに、貪欲に求めてしまうのは俺も同じで。──俺だけだと、そんな、不完全な感情で。