【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
絞ることができないのなら、対策もできない。
HTDは、そもそも名前の由来すら知られていないし、南に行って実際に喧嘩しようにも向こうの治安が悪すぎて別の問題に巻き込まれる可能性だって出てくる。
闇の売買が行われてるだとか警察まで犯罪に関わってるだとか、そんな黒い噂ばかりが渦巻く街。
近づけば、最悪の場合とまではいかなくても犠牲者が出ると思った方がいい。
『だからってこのまま6月まで何もしないで待つこともできないだろ』
「……わかってるよ」
受け継いだばかりじゃ俺自身の情報量も少ない。
いろいろ考えることはある。だけど莉胡を最優先するという意味では、頼れる人ならいる。
頼るしかないか、と薄くため息を吐いた時。
こんこんと部屋の扉がノックされて、「はい」と返せばかちゃりと開く扉。
顔をのぞかせたその人のタイミングの良さに、なんというかもう驚きもしない。
むしろ驚きを通り越してため息が漏れる。
「なんで俺の家にいるんですか、十色さん」
「ん?莉胡に会いたくなって」
「いますぐお帰りください」
「……ほんと千瀬は冗談通じないよね。
嘘だよ。どうせお前は莉胡を守るためならプライド捨ててまで俺んとこくるだろうなと思ってたから先に来てあげたの」
大学帰りに、なんて言いながら差し出されたのは黒いバッグで。
スマホをスピーカーに切り替えて置き、かなり重いそれを受け取って床に置くと、中には分厚いファイルが4冊。
「HTDが一番動いてたのは俺が引退するよりももっと前。
ちょうど莉胡が俺を裏切って東西の仲が変わった去年の夏頃だ」
悔しいけど、この人の情報網は伊達じゃない。
きっと西も知らなかったその話に、全員が十色さんの話をちゃんと聞いてる。