【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
「あーも、俺お腹いっぱいなんだけど。
ふたりきりになったらずっとこうやってイチャついてるんでしょ。よくやるよね」
「十色さんまだいたんですか?」
「お前ね……」
「……冗談です。
資料、ありがとうございました」
ひとまず俺から離れた莉胡がベッドに寝転び、勝手に持参して俺の部屋に勝手に置きっぱなしにしている抱き枕を抱きしめる。
それをちらっと見てからお礼を言えば、十色さんはふっと笑って。
「お前なら絶対大丈夫だろうけど。
莉胡のことしあわせにしてやってよ」
それだけ言って、じゃあ帰るよと立ち上がる十色さん。
なんだかんだお世話になっているわけで、玄関まで見送るかと俺も立ち上がれば、莉胡が「またね十色」と一言。下まで来る気はないらしい。
「ふふ。相変わらず莉胡は、たまに気まぐれな猫みたいになるよね。
ちゃんと手懐けとかないと、あっさり逃げそう」
「……でも首輪をつけるのは嫌がる猫ですよ」
「そうだね、自分が好意的に思ってる相手にしかついてこないし。
困った猫だけど、手なずけた時のあの嬉しさって倍増しない?」
くすくす。
笑った十色さんが振り返って、おもむろに自分の鎖骨あたりをとんとんと指したかと思うと。
「じゃあ、それも猫の仕業かな」
猫の仕業……?
そんなのあったっけ、と彼が指したあたりに自分で触れて記憶をさかのぼる。すこし考えてから、数日前に彼女がそこにくちびるを押し当てていたことを思い出した。
「……そうですね。
俺のことを大好きで仕方ないらしい猫に噛まれました」