【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-



莉胡、とわたしの名前を呼ぶ声。

そこでようやくはっとして顔を上げれば、出てきたときはオレンジがかっていた空も宵闇色。



「千瀬、」



「ひとりで外出るなって言わなくても、

いまがどんな状況かちゃんとわかってるだろ」



決して荒々しくはないけれど深く強い声に、思わず「ごめんなさい」と謝る。

それでも隠しきれない苛立ちを逃すように千瀬は「チッ」と舌打ちした。その様子を見たら、どれだけ彼が心配してくれたのか、わかる。──昼間だって、あんなに急いで来てくれたのに。



「そんなに怒らないであげてください。

すみません、俺が引き止めてしまって」



「、」



彼をちらりと一瞥した千瀬が、わたしの肩をつかんで引き寄せる。

それから「帰るよ」と強引にわたしの手首を引いて帰ろうとするから、思わずその手を振り払った。




「……莉胡?」



さすがに、それにはおどろいたように。

千瀬が振り返ったから、しまった、と思った。



だけど。

どうしても、納得できなかった。



「千瀬は自分勝手よ……」



絞り出した声が震える。

喉の奥が焼けそうな程に熱くて、じわりと滲んだ涙だけは落とさないように、ぐっと堪えた。



「わたしは千瀬の都合の良い彼女じゃない……っ」



守ってくれてるのも本当に大事にしてくれてることもちゃんとわかってる。

わかってるけどそれ以上に、目に見えてわかるほどの千瀬の気持ちが欲しい。そんな考えすら自分勝手なんだから、言ってることが矛盾してることも自覚してる。──だけど、やっぱり、どうしても。



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