【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
呼べば返事をしてほしいし、好きだと言えば同じだけの愛情を返してほしい。
わたしが貪欲に求めてしまう分だけ、千瀬にももっとわたしのことを求めてほしいと、思うから。
「千瀬がちゃんと好きでいてくれないなら……
わたしは姫なんて肩書きもいらなかった、っ」
──最低なことを言ったと気づいたのは、霞んでいる視界の向こうに見えた千瀬の傷ついた顔が、涙というフィルターを通して見たとは思えないほどに、鮮明だったから。
ごめんなんて一言じゃ取り返しがつかないほどにひどいことを言ってしまったと、はっとするけれど。
「……ごめん」
先に謝られて、言葉が出てこない。
謝らなきゃいけないのはわたしの方なのに、頭の中は真っ白で、はらりと堪えていたはずの涙がこぼれ落ちた。
「……莉胡のことそんな風に追い詰めてたの、全然気づいてやれなくてごめん。
もうちょっと冷静になってから、ちゃんと話そう」
ミネラルウォーターのはいったコンビニ袋をわたしの手から受け取った千瀬が、代わりにわたしのスマホを持たせる。
コンビニに行くだけだからと、部屋に置いてきたものだ。
「先帰ってるから……なんかあったら連絡して」
「、」
千瀬、と。
名前を呼べなかったのは、彼がわたしに触れようとしなかったから。いつもならそんな些細な会話ですら髪を撫でたりしてくれる千瀬が、戸惑ったように距離をつくったから。
「……っ、」
ただ名前を呼んだだけじゃ届かない距離まで千瀬が離れてから、ようやくぼろぼろと涙がこぼれ落ちて、思わずその場にしゃがみこむ。
駅前でこんな風に騒いでいたから当然視線は集めていて、わかっていたけど、いまは立ち上がれない。
こんなときに巻き込まれただけの彼は、それでもわたしの元から離れることなく同じようにしゃがみ込んで、ハンカチを差し出してくれた。
……ほんと、みっともなさすぎる。
初対面の人の前でこんな風に喧嘩して、
挙句自分の発言で傷ついて傷つけて、泣いてるんだから。