【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
「っ、巻き込んでごめんなさい、」
「ううん、むしろ俺が巻き込んじゃったかな」
涙で声が出てこなくて、とにかく首を横に振る。
せっかく……付き合って、うまくやってきたはずなのに。数時間前までは、しあわせに浸れていたのに。
「……ほんとに好きなら、きっと大丈夫だよ」
肩を引き寄せられて、ピクッと反応するわたし。
優しく抱きしめられて、「大丈夫」だと言われたら、拒みたくても拒めない。
「……大丈夫。
泣き止むまでそばにいるから」
ぽんぽんと頭を撫でられて、涙が余計にあふれてくる。
結局。彼の腕を振り払うこともなくしばらくそのまま泣いたわたしは、泣き止んでから唐突に恥ずかしくなって、彼にひたすら謝った。
そんなわたしに、彼はくすくすと笑っていて。
雰囲気がどこか、十色みたいな人。だけど十色ともちがうその雰囲気が、わたしを惹き付けて離さない。
「落ち着いたみたいなら、よかった。
……彼と、ちゃんと仲直りできそう?」
「わ、かんない……
けど、大丈夫……幼なじみだから」
絶対仲直りできる。
そう答えたわたしに彼はまた小さく笑って、優しくわたしの髪を撫でてくれたかと思うと、おもむろに連絡先でも交換する?と聞いてきた。
断る理由もないし、と千瀬に手渡されたスマホに触れて、彼と連絡先を交換する。
表示されたのは『砂渡ミケ』。優しい雰囲気とどこか不思議な雰囲気を併せ持つ彼に、よく似合う名前だなとぼんやり思いながら。
「それじゃあ、また連絡するね。
……気をつけて、莉胡ちゃん」
案内してくれてありがとうと手を振った彼を、改札越しに見送る。
そのまま千瀬の元へもどる気にもなれなくて『家に帰るね』と送れば、彼からは『わかった』と一言だけ返ってきた。──また、千瀬との距離が遠くなる。