【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
もぞもぞと手を伸ばして探ったスマホ。
時刻はいつも千瀬が迎えに来る時間で、部屋の外からは話し声のようなものが聞こえる。熱のせいでいつもより熱い吐息を吐いてから目を閉じると、誰かが階段を上ってくる音。
「……莉胡、」
わたしの部屋の前で止まったそれと、聞こえてくる幼なじみの声。
どきりとしたけれど、扉越しに話しかけてくるだけで部屋に入ってくる様子はない。
「寝てるかもしんないけど……
昨日はごめん。いま危ない時期だから、莉胡のこと心配しすぎて、焦って空回りした。ほんとにごめん」
「………」
「……HTDのこと、抜きにしても。
俺がただ……莉胡とほかの男が一緒にいることに焦って、俺のなのにって独占したくて、」
千瀬が伝えてくれる本心に、胸が痛い。
普段から彼は優しいけれど、本心すべてを伝えるのはひどく勇気がいる。それをわかった上で、千瀬はこうやって言葉にしてくれる。──わたしの、ために。
「ごめんやっぱり……
色々考えたけど、俺が莉胡と離れたくない」
──わたしだって、そうだった。
昨日何度も何度も泣いたのに、導き出される答えに別れなんてなかった。どうすればうまくそばにいられるのか、ずっと考えてた。
扉越しの距離が遠い。
身体がだるくて、彼の元まで行けないのがつらい。……動けるなら、ごめんねって、いますぐ千瀬の顔を見て謝りたいのに。
「千瀬、」
正直意識をたもつので精一杯だけど。
このままあっさり終わらせたくなくて、千瀬の名前を呼ぶ。ちゃんと聞こえたのか、「莉胡?」と聞き返す声が耳に届いた。
「こっち、来て……、
そっちまで、行けないから……」
ひとつも取り零さずに、わたしの声を聞いてくれてる。
扉越しなのにそんな気がするのは、幼なじみの勘。……ずっと一緒にいたわたしだから、わかること。