【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
一瞬、沈黙がおとずれる。
だけどそれはほんの一瞬で、かちゃりと静かに開いた扉。そこまでは遠慮がちだったけれど、入ってくると開き直ったのかわたしのすぐそばまで歩み寄ってくる千瀬。
「お見舞いは、来なくていいんじゃなかったの?」
床にバッグを置いた千瀬が、椅子を引き寄せてベッドの高さと合わせ、腰掛ける。
ブレザーを脱いで煩わしそうにネクタイをゆるめた千瀬を見上げながら、口を開いた。
「声聴いたら……顔、見たくなっちゃったの」
「ふーん?」
「千瀬……遅刻、する」
熱い頬に触れる、千瀬の手。
冷たくはないのにわたしの体温があまりにも高いせいで気持ち良くて、遅刻すると言いつつ離れたくないのはわたしのほう。
「俺がこのまま学校行ったら、
莉胡さみしくて堪んないでしょ?」
「……そんなことない」
「なら学校行こうか?
そのあと倉庫に寄って話し合いもしなきゃいけないから、帰ってくるのは遅くなるし会えないだろうけど」
「っ、いじわる……!」
わたしがどうしようもなく千瀬を好きだって知ってるくせに。
離れたくないと思うほど好きだって、わかってるくせに。
「……なら、素直にそばにいてほしいって言いなよ」
優しい視線を向けてくれる千瀬に、勝てるわけがない。
どきどきだけが増して、苦しくて、でもしあわせで。熱があってよかった。──鼓動が痛いほどに鳴って顔が赤くても、熱のせいだって誤魔化せるから。