【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-



「……、そばに、いて」



素直なわたしのお願いに口元をゆるめた千瀬。

手を伸ばすと、自分の手を重ねた彼が指を絡めてくれて、わずかなのに重なる体温が愛おしい。



「俺が莉胡を姫に指名したの……

莉胡には、やっぱり迷惑だった?」



静かな部屋の中で。

千瀬がそう問いかけてきたから、昨日のわたしのセリフを気にしてることに気づく。ちがうと否定して、傷つけたことは素直に謝った。



「千瀬が月霞のことばっかり優先するから……

その存在にすら嫉妬するなんて、笑う?」



「……笑わないよ。

俺のまわりに女子は由真ぐらいしかいないけど、俺の嫉妬の対象どんだけいると思ってんの」



「……嫉妬するの?

わたしは、千瀬しか見えてないのに」




わたしを見下ろす瞳がどこか熱を孕んで見えるのは、わたしの瞳が熱を孕んでるからかもしれない。

きつく絡めた指先だけじゃ物足りないと言うように身を乗り出した千瀬。キスはだめ、と言えば拗ねたような顔をする。



「風邪じゃなくて熱でしょ?

ならキスしたってうつらないから大丈夫」



「……でも」



「もういいじゃん……仲直りしよう」



有無なんて言わせず、くちびるをふさがれる。

熱があるせいでぼんやりしてる頭が余計にぼんやりするから、何も考えられない。絡めていない方の手を、身を乗り出す千瀬の背に回して。



「……だいすきだよ」



彼がいつもの"好きだよ"よりも大きな言葉をくれるから、頬がゆるんで仕方ない。

仲直りでいい?と聞かれてこくこくとうなずいたら「もう喧嘩したくないな」と切実につぶやくから、思わず笑ってしまった。



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