【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
「笑い事じゃないから。
……また去年みたいに長引いたら割と落ち込んでたからね」
「だって」
「去年は幼なじみだったけど、
今年は付き合ってるんだからさすがに落ち込む」
……そっ、か。そうだ。
付き合ってからこんな風に大きな喧嘩をしたのって、はじめてだ。気づいてなかった上に仲直りできたから良かったものの、もし千瀬がここまで来てくれていなかったらと思うとひやりとする。
「喧嘩する原因……いつも俺の空回りだね」
「……でも、その空回りの原因はわたしでしょ?」
あのとき莉胡のこと好きだったからムカついたんだよって、付き合ってから彼は前の大きな喧嘩となった原因が、わたしだったことをちゃんと教えてくれた。
そして、喧嘩する前はちゃんとわたしのしあわせを願っていたのに、添い寝した日の朝方にこっそりわたしにキスして箍(たが)が外れたらしい。それについても、彼は謝ってくれた。
「なんていうか、さ……
莉胡のことほんとに好きだと思ってるけど……幼なじみが長かったし、特に俺は莉胡の気持ちを優先してたから、正直彼女になってからってあんまり考えたことなくて」
「……うん、」
「莉胡を自分のものにしたい、なんて欲求だけはあったくせに、その先は全然考えてなかったんだよね。
だから、たぶん莉胡が思ってるような恋人の価値観とうまく噛み合ってないんだと思う」
それを聞いて、ふとちあちゃんの言葉を思い出す。
千瀬はとても器用だけど、本当はその中に不器用なところもあると、彼は言っていた。
そしてそれは、
わたしが誰よりも知っているんだと。
「千瀬は……不器用よね。
……わたし、千瀬の器用なところしか見たことがない気がしてたけど、よく考えたら元々感情に対して千瀬は不器用だった」
付き合うことになったあの日も。
彼はストレートな言葉ではなく、遠まわしに告げてくれた。そこに不器用さは、十分すぎるほど滲み出ていたのに、どうして千瀬が器用だと思い込んでいたのか。