【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
「……ねえ千瀬、たまにふたりきりでお泊まりするじゃない。
お母さんたちがいない時とか……あとは泊まりじゃないけど、お母さんが遅くなる日にふたりきりだったりとか」
「……うん、あるね」
「そのとき……
いつもわたしのこと求めてくれるじゃない」
なにを、とは言わなくても千瀬はわかる。
幼なじみから恋人になるのはわたしにとっては正直恥ずかしいところもあって。だけど彼に絆されて、そうやってみっともなくふたりで熱情に溺れてしまうのも嫌いじゃないの。
「あれは本能的なものでしょ……?
なら……普段から本能に任せてくれたっていいじゃない。理性ばかり働かさなくても」
千瀬の中ではたぶん、常に理性が働いていて。
わたしと月霞は、悔しいけれど対象の天秤に乗っかっている。だから千瀬は、どちらを特に優先するというのを決められない。
だけど、わたしとふたりきりのときは。
まだ長時間ふたりきり、という条件のもとに、彼は理性よりも本能を優先する。
「たまには……
月霞よりもわたしのことを優先してほしいの」
素直に言えば、これはわがままだ。
月霞という千瀬の大切な仲間よりも、特別扱いしてほしいというわたしのわがまま。
十色がトップに立ちながらもわたしのことを溺愛してくれていたから、その名残で欲しくなってしまう。
……比べちゃいけないのは、わかってるんだけど。
「月霞が危険な目に遭ってるだとか、何かあったとかなら、もちろんそれを優先してくれていいの。
だけど普段はちょっとでいいから……わたしを、贔屓してほしい」
わたしがデートしたいって言ったら月に1度くらいはお家デートしてほしい。
できなくても、添い寝だけのお泊まりならいつでも出来るから声をかけてほしいし、部屋にいるときはずっと構わなくてもいいから、せめて会話を投げたら返して欲しい。
全部全部わがままだけど。
素直にこうして欲しいと言えば、千瀬はちゃんと努力してくれる。
「わたしのわがままなとこもぜんぶ……、
好きに、なってほしいの」