【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
見慣れないその名前に誰だっけ、と思ったのは一瞬で。
ああ昨日の彼か、と思い出すと『仲直りできたよ』と返す。わざわざ連絡してきてくれるなんて、律儀な人だ。
ほかには特に大事な連絡もないし。
スマホを置いて、4冊あるファイルのひとつに手を伸ばしてみる。どうやらそれは千瀬が見ていたメンバーのものとは別のようで、過去の活動記録のようなものらしい。
ぱらぱらとしばらく流すように目を通していたら、かちゃりと開く扉。
入ってきた千瀬は、わたしが勝手にそれを見たことには何も言わず、「熱上がるよ」とだけ告げた。
「ベッドから出られる?」
お粥をテーブルに置いてから振り返った千瀬にうなずいて、もぞもぞとベッドを出る。
床に置いたクッションの上に座って彼にお礼を言ってからお粥を口に運ぶと、相変わらずわたし好みの味付けで美味しい。
「ふ……莉胡さ、俺の料理食べてる時、
ほんとしあわせそうな顔してくれるよね」
隣に座った千瀬がわたしを見て、ふっと頬をゆるめた。
……しあわせそうな顔なんて、してる?
「そういう顔してくれるから、
つくってよかったって思えるんだよね」
ちょっとうれしそうな顔で優しく頭を撫でてくれる千瀬に、きゅんとするけどそれよりも。
今日のわたし、メイクしてないし髪も梳いてないし、あんまり見て欲しくないというか。
「千瀬……自分のご飯は?」
幼なじみとはいえど、やっぱり千瀬にとってかわいい彼女でいたい。
話題をそらして髪に触れてる手を握ったら、「莉胡が起きるちょっと前に食べたよ」と答える彼。
そっか、と小さく返すと、千瀬を意識しすぎないように黙々とお粥を食べる。
わたしが喋らなくなったからか、千瀬も自分のスマホへと視線を落とした。
「ミヤケから『お前なんで学校来てねーの?』って送られてきたんだけどさ。
あいつ俺と違う学校行ってんのになんで知ってんだろうね」
「……誰かがミヤケに教えたんじゃない?」