【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
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莉胡がミヤケの電話に出て、事情を説明した。
彼女の返事を聞いてから、ミヤケにミュートにさせて莉胡には俺らの会話が聞こえないようにする。莉胡に何かあった時のための対策だから、莉胡が会話を知る必要はない。
送ってもらった番号に電話をつなぐ。
無機質な音が続いたあと、コール音が変わって、1回、2回、3回──
『はじめまして。
……ではないね、昨日会ったから』
まるで俺が電話をかけることを知っていたみたいに。
名乗ってもなければ口を開いてすらないのに、俺だと確証を持ってそう言った砂渡。
『彼女と無事に仲直りできたようで何より。
この電話は、莉胡ちゃんの彼氏としての連絡?それとも、月霞7代目を背負っているからこその連絡?』
「月霞7代目の俺が、姫である彼女を守るための連絡。
……言わなくてもそんぐらいわかると思うけど」
そうだねとくすくす笑う声。
雰囲気も声も昨日と同じだけど、なぜかそこに昨日とうって変わって違うものがあるような気がするのはどうしてだろうか。……この男と話してると、なんとなく気持ち悪い。
「……昨日莉胡に接触した理由は?」
『総長からの命令だよ。姫の様子を探れって。
美人な子だって聞いてたけど本当に美人だった』
「そうやって昨日は莉胡の口説いたんだ?
俺が莉胡と大喧嘩したから、さぞかし見てる方は楽しかっただろうね」
『その表現はおかしいよ……?
彼女は大喧嘩するつもりもなかった上に、喧嘩したわけでもない。はじめから君が嫉妬して空回りしただけだよ』
「、」
『下見ついでに攫ってもよかったんだ。
ただ……あんな風に大喧嘩して攫われたら、君の精神を壊すよりも先に、莉胡ちゃんの精神が壊れると思ったからやめた』
ああ、そうか。この男と話すと気持ち悪いと感じるのは。
……未来までわかってるんじゃないかと思うほど的確に、事実に基づいて理論的なことしか言わないからだ。──誰でも容易に想像がつくリアリティにあふれた言葉でしか、会話を交わさない。