【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
別に返事は期待していなかった。
大抵こういう場合、無視されるだろうと思っていたから。──だけど律儀に「ハァ?」と反応した男は、電話越しでも聴こえるため息を吐いた。
『んなの、わかりきってることだろうがよ。
はじめから東西なんかどうでもいい』
「、」
『俺の目的は最初から夏川莉胡だけだ』
「……なら逆に、東西を巻き込む必要はない」
『お前を傷つけることももちろん目的だっての』
俺を傷つけること。
どうしてそこにこだわっているのかは知らないけど、俺が守りたいもの両方に手を出すのはやめてほしい。──どっちだって、見捨てたりなんかしないけど。
「お前、
ひとりの女のために東西全部を敵に回す気か?」
ずっと会話を黙って聞いていた春。
俺はひとりで電話してるなんて言ってなかったのに、それに違和感も抱かないらしい男は、『はっ』とバカにしたように笑って返した。
『東西なんか敵に回した記憶はねえよ。
俺が喧嘩を売った相手が、ただ東のトップだったってだけだろ』
「、」
『言っとくがこっちは人員を確保する気もねえ。
目的はさっき言ったふたつだけだ。──ただ、七星千瀬を絶望させて、正式に夏川莉胡を手に入れること』
東西と喧嘩なんかしねえよ、と言い放つ白葉。
そう見せかけて実際は膨大な量の人数を用意してるかもしれない、なんていう仮説は浮かぶのに、どうしてかこの男にはそれを感じない。
本気で、言ってる。
……この感覚をどこかで味わったような気がするけど、一体、いつ、どこで?