【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
「……何かあったの?」
「え?」
「……悩んだ顔してるから。
HTDのことで、何かあったのかと思って」
すっかり体調は良くなったようで、おかえりと俺を笑顔で出迎えてくれた莉胡。
なんの違和感もなく、ほぼ1日を過ごしている夏川家にお邪魔したらひさびさにおじさんが帰宅していたらしい。相変わらず仲良しだなと微笑まれた。
ふたりきりの部屋で。
めずらしく莉胡が話しかけてこないから部屋がずっと静かだなと思っていたら、どうやら俺に原因があったらしい。
「……ミヤケのことでちょっとね」
莉胡がぴったり引っ付いてくれてるから、その肩に擦り寄るようにして顔をうずめたら、「千瀬?」と名前を呼ばれる。
そのまま莉胡の肩に額をつけて押し黙っていたら、ふわりと髪を撫でられる感触。
「……忘れてたけど、あいつ彼女いるじゃん」
それにほっと身体の力を抜いて、莉胡の腰に腕をまわす。
抱きしめるというよりは、甘えて抱きつくのに近いそれを嫌がることなく受け入れてくれた莉胡は、うなずきながら髪を撫でるのを続けてくれる。
「俺らいろいろ迷惑かけてるしさ。
……いまさらだけど、さすがに申し訳ないと思って」
「……ふふ」
「……、なんでそこで笑うの、」
「ううん。
ミヤケが聞いたら、きっとよろこぶと思って」
容易に想像できるから、もはやため息しか漏れない。
そうだね、と棒読みでつぶやけば莉胡が楽しそうに肩を揺らして笑うから、文句を言えば「いいじゃない」と一言。