【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
音もなく、ただお互いに"触れた"と触覚だけを刺激するようなくちびるのふれあい。
下心なんて微塵もないキス。一度触れてから離れたことで角度が変わり、澄んだ瞳には長いまつげの影が差した。
「……そうね。
わたしよりもずっと、お利口な人よ」
「ふ。そこで自分を引き合いに出すんだ?」
「だってわたしも……
千瀬のことが、だいすきなんだもの」
ああもう。……かわいいな。
仕方ないなと思う心情とは裏腹に、無意識で口角が上がってしまう。綺麗だと思わせる瞳が、今度は惑わせるような色気を孕むから。
「……だけど俺が好きなのは莉胡だよ」
知ってる、と楽しげに告げるくちびるを塞ぐ。
……こうなればもう、ミヤケのことなんて、頭にない。目の前の莉胡だけで、精一杯。
「……土曜日までちゃんと我慢するから、
土曜日は俺のこと甘やかしてよお姫様」
「……その約束取り消しとか、」
「だめ。……莉胡のこと欲しいから」
「っ……、
そう言えばわたしが逆らえないと思って、」
たまらなく愛おしいこの気持ちを、どうしようか。
欲望に喉は渇くくせに、愛だけはばかみたいにあふれてくる。全部全部、俺の愛情を目に見えるほど、莉胡が喰らい尽くしてくれればいいのに。
「……だいすきだよ、莉胡」
──いっそ、好きすぎて、憂鬱になりそうだ。